全コア4.50GHz駆動にした場合の冷却性能をチェック
定格駆動では「DESSERTS3」とほとんど変わらないパフォーマンスを発揮した「GRATIFY3」。続いて全コア4.50GHzにオーバークロックした、より過酷な条件での冷却性能を検証していこう。
CPU温度計測

テスト中の動作クロックは4.50GHzを維持できているが、CPUの温度は概ね
84~89℃で推移。さらに最高温度は「DESSERTS3」から約8℃上がり
89.3℃を記録した。Ryzen 9 5950Xの最高温度が90℃であることを考慮すると、冷却性能はほぼ限界に達している。
冷却ファン回転数計測

ファンの回転数もほぼフル回転となる
1,550rpm前後で張り付いており、やはり余力は残されていない。
ヒートシンクの温度計測
最後に「GRATIFY3」でもヒートシンクのポイント別温度と、サーモグラフィの結果を確認していこう。こちらもオーバークロック状態で、「OCCT 7.2.3 CPU:LINPACK」を30分実行した後に計測をしている。
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「OCCT 7.2.3 CPU:LINPACK」30分実行後のポイント別温度計測結果
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アイドル時のサーモグラフィ結果
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「OCCT 7.2.3 CPU:LINPACK」30分実行後のサーモグラフィ結果
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ポイント別温度は「DESSERTS3」と同様、受熱ベースの温度が最も高く、CPUから離れるに従って温度が低い。またサーモグラフィでは、やはりヒートパイプ付近の温度が高くなり、CPUから発生した熱がヒートパイプを通じて移動している様子が確認できる。
総評:改めて知る空冷CPUクーラーの奥深さ
今回検証した2つを並べてみると、トップカバー部の違いはあるものの、立ち姿はほぼ同一だけに、初見では「ずいぶんと価格差があるんだなぁ」と感じたものだ。間違い探しのように細部を見比べていくと、程なくヒートパイプの本数が異なることに気が付く。さらに目に見えないところでは、「DESSERTS3」最大の特徴である"リフローはんだ付け工法”が、エントリーモデル「GRATIFY3」には採用されていない。
この点が非常に興味深いところで、ほぼ同サイズのヒートシンクと共通の冷却ファンを搭載した兄弟モデルが、
1本のヒートパイプと製造工法の違いでどれほどの冷却性能に違いがでるのかを知る事ができる。「DESSERTS3」は歴としたハイエンド帯だが、一方の「GRATIFY3」は単なる引き立て役なのか。それともコストパフォーマンスに優れる隠れた佳作なのか。事によって"戦略的”なのは価格設定だけではなく、冷却パフォーマンスにも期待できるのではないだろうか。ProArtistの新作は、大いなる興味と期待のもと、年末年始の時間を使い検証を行った。

Ryzen 5000シリーズの最上位モデルRyzen 9 5950による冷却能力テスト結果は、解説通りなので繰り返さない。ザックリ言えば、「DESSERTS3」はオーバークロック状態でも余裕をもって冷却し、「GRATIFY3」は定格なら「DESSERTS3」同等、オーバークロックによる常用なら選択肢から外す方が無難だろう。製品の立ち位置や、価格帯による性能の棲み分けはキッチリとできていると見ていい。
最後にヒートパイプ本数と製造工法の違いについて、別の角度から見ておく事にしよう。「OCCT 7.2.3 CPU:LINPACK」30分実行後のサーモグラフィ結果の比較が興味深い。
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「OCCT 7.2.3 CPU:LINPACK」30分実行後のサーモグラフィ結果比較
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左が「DESSERTS3」、右が「GRATIFY3」だ。両者を見比べると、リフローはんだ付け工法により製造されている「DESSERTS3」は、ヒートパイプ付け根から放熱フィンへの熱の拡散が効果的に行われている事が分かる。Ryzen 9 5950の定格運用では大きく差が付かない点から「GRATIFY3」は優秀だが、ひとたびオーバークロック状態になると、上位モデルのアドバンテージが数値になって現れる。
経験則から、ハイエンド志向の空冷クーラーは、パフォーマンスが多少ピーキーな傾向にある。製品の実力とも言うべき高負荷時の冷却性能は、定格常用では体感しにくく、通常運用で明らかな恩恵を実感できる事は稀だろう。
定格の「GRATIFY3」、オーバークロックの「DESSERTS3」。両者の性格はハッキリと分かれ、製造方法の違いからCPUクーラーの奥深さを改めて知る事になった。
協力:株式会社サイズ