グラフィックスカードを搭載してみる
続いてグラフィックスカードを搭載してみたい。CH260に搭載できる拡張カードは、フロント部に冷却ファンが無い状態で長さ413mmまで、一般的な25mm厚の冷却ファン搭載時で長さ388mmとされる。数字から小型PCとは思えない広大なスペースだが、なかなか額面通り行かないところが小型PCケースでもある。
ともあれ、搭載テストにはNVIDIA GeForce RTX 4070 Founders Editionを用意した。全長は約243mmで、有効スペースからすればやや控え目に感じるだろう。まずは搭載後の様子を画像で確認してみたい。

搭載方法はオーソドックスで、拡張カードスロット2つを外し、ここにGeForce RTX 4070 F/Eを挿入。拡張カードを固定していたインチネジをそのまま使い固定すればいい。そしてカード中央部にある12VHPWR電源コネクタにケーブルを接続すれば、搭載作業は5分もあれば完了する。
有効スペースは最大413mmとされているため、243mmのグラフィックスカードは一見すると非常にコンパクトに見える。しかし、実際にはその空きスペースすべてを使えるわけではない。というのも、電源ユニットを7段目まで下げて固定している関係で、グラフィックスカード搭載後のクリアランスは、実測で約12mmになってしまった。

つまり、奥行き140mmの電源ユニット「PN650D」と、360mmサイズのAIO水冷「LQ360」を組み合わせた場合、
グラフィックスカードに確保できる有効スペースは実測で約255mmまで短縮されてしまう。事前に公開されているスペック数値だけを参考に構成パーツを選定すると、実際の組み込み時に干渉が発生する可能性がある点には注意が必要だ。

ただし、これらの事象を一概に“トラブル”と断じることはできない。というのも、これはCH260特有の問題ではなく、内部容積の限られた省スペースPCケースでは、ある意味“よくあること”だからだ。筆者自身もこれまで数多くの小型ケースで組み込みを行ってきたが、毎回のように何らかの壁にぶつかり、その都度回避策を探る連続だった。つまり、CH260だけに非があるわけではなく、マニュアルや製品サイトには書かれていない“実際に組んでみて初めてわかる”ポイントが詰まっていることは、あらかじめ理解しておきたい。
冷却ファンの増設について
CH260は冷却ファンが搭載されていない。搭載スペースは3箇所で、現状前後に空きスペースがある。内部容積が限られているだけに、積極的にエアフローは強化しておきたい。そこでARGBファンの3個パック、
DeepCool「FL12」(型番:FL12-BKAPN3-G)を用意し、フロントに2個、リアに1個をそれぞれ搭載してみることにした。
|
|
|
"高性能・低ノイズ・独自のライティングエフェクト”が特徴の120mmファン「FL12」。ラジエーターに搭載したFD12 ARGB同様、8pinコネクタを採用し、コネクタ接続後は5mm出っ張る仕様
|
まずフロント部に注目すると、約5mm出っ張る8pinコネクタは、電源ユニットを最下段に移動したことで干渉を回避できている。逆に言えば、電源ユニットをデフォルト位置である最上段に配置した場合、ラジエーター搭載ファンと干渉し、取り付けはできない。
さらに、仮に8pinコネクタを下向きにしても、下段の120mmファンと干渉してしまう。一方で、上方向はすでにラジエーターが占有しているため、そのすき間はない。結果として、今回は右上部に残されたわずかなスペースを活用するしかなかった。
|
|
ラジエーター搭載ファン同様、電源ユニットを最下段にする事で8pinコネクタが露出。僅かな"正解”を見つけ出し、今回の構成との折り合いを付けた
|
なお、下段の120mmファンは、コネクタを下向きにして取り付けている。「FL12」にはデイジーチェーン接続用のケーブルが付属するものの、ファンの搭載位置が「2基」と「1基」に分かれているため、付属の8pinコネクタケーブル3本を使用。さらに手持ちの冷却ファン用電源分岐ケーブルと、ARGB用5V 3pinの分岐ケーブルを組み合わせて接続した。
|
|
リアはコネクタを下方向にしての搭載。このポジションに排気ファンは用意したい
|
総評:DeepCool「CH260」の[○]と[×]
省スペースPCケースは根強い人気があり、これまで比較的高価なモデルがロングセラーとなる例も少なくなかった。近年では、ミドルタワーPCケースと同様に、左側面に強化ガラスを採用した“魅せる”スタイルの製品が増え、密閉構造を避けるための全身パンチング加工による「フルスチールメッシュパネル」も定番となっている。
「CH260」は、そうしたトレンドを取り込んだ“今どき”の省スペースPCケースであり、市場想定売価税込10,580円(ホワイトは11,800円)という価格は、完全に普及価格帯を狙った戦略的モデルと言えるだろう。

一方で、購入しやすい価格だからといって、万人にオススメできる製品とは言いがたい。「CH260」は、やはり中級者から上級者向けのPCケースと考えるべきだろう。その理由は、組み込みセッションの「文量」からも感じ取っていただけるはずだ。
繰り返しは避けるが、省スペースPCケース特有の限られた内部容積は、組み込み作業において時に“トラップ”となり、手を止めざるを得ない場面が出てくる。問題を解決できれば設計の妙に感心し、逆に明らかな不備には憤りを感じる──そんな一喜一憂が常に付きまとう。
とはいえ、それこそが小型PCケースの醍醐味であり、自作PCの面白さでもあるのは間違いない。こうしたプロセスを楽しめない、あるいは自信がないという人には、素直にミドルタワーPCケースの選択をオススメしたい。

CH260を評価するうえで、まず「○」としたいのが、そつのない工作精度だ。付属品である「Sunk Screws(皿ネジ)」を用い、各部はしっかりとネジ留めされている。これらのネジを外すことでパネル類を開放できる構造になっており、狭い空間で無理に工具を使う必要がない点は大きな利点だ。
検証中には同じ箇所を何度も着脱する場面があったが、ネジ穴のヘタリや締め付けの違和感を感じることは1度もなかった。こうした作業の安定性には、切断や組み付けといった工程における工作機械の品質向上が強く反映されているように思える。

一方で、「×」と感じたのは「汎用性」の部分だ。自社製品との協調が不十分な場合、ユーザーにとっては使い勝手が悪くなったり、ストレスの原因になることがある。そうした点については、もう一段踏み込んだ設計が求められたのではないだろうか。
たとえば、長尺のグラフィックスカードやラジエーターの搭載を前提にした奥行きには十分な余裕があるが、幅に関してはあと5~10mm程度の余裕が欲しかった。それだけで組み込みやすさの印象が大きく変わるはずだ。
提供:Deepcool Industries
株式会社アユート